「興亡の世界史 大清帝国と中華の混迷」平野聡

明の滅亡から清による中国の統一、内陸における大帝国の建設から近代の崩壊まで。

帝国を統治するための思想と、近代主権国家思想との相克がメインテーマ。

一見すると清は儒教中華思想で動いていると思われがちだが、実際は内陸アジアを統治するためにチベット仏教で動いていた。今でこそチベット後進国だが、当時は内陸アジア世界の精神的な首都であった。

朝鮮の描写が興味深く、朝鮮からすると清は夷狄であり、自らこそが礼の体現者であるという意識があった。

清と徳川幕府朝貢関係になく、清にとって日本は意識の外であり、日本は独自に国粋思想を育む。清、朝鮮、日本の意識の差が日清戦争というカタストロフィにまで行き着いてしまう。

朝貢国、属国という関係は近代主権国家とは相容れなく、欧米列強は中華思想を無視して植民地獲得に走る。清末には官僚の中でも近代主権国家にしようとする流れがあるも、実る前に辛亥革命が勃発し中華民国が成立してしまう。中華民国が清を継承し、近代主権国家を目指した結果、現在の中華人民共和国による歴史的領土の主張につながる。

日清戦争前の情勢では、宮古島以西は清の領有の可能性があったという記述があって、こういうのは本当に時の運だなあと思ったりする。