「海も暮れきる」吉村昭著

自由律俳句の尾崎放哉の最期のお話。
尾崎放哉は帝大卒業で生命会社勤務のエリートだったのですが、酒癖の悪さで辞職して妻からも別れて流浪の日々に。結核を病み、最後は小豆島に渡って堂守となり、八ヶ月で死ぬまでを克明に書いてます。
放哉は酔うと人格が変わって他人を罵倒しまくるという酒癖最悪の人です。小豆島では病身でろくな収入もないので、知合いに手紙を書きまくって金や物を無心しまくり。親類には見放されていて、心身のすさみ具合が半端ないです。
酒癖の悪さを自覚してるのに、飲まずにいられないのが切ないところ。結核が進行して酒も飲めなくなってくると句がどんどん鮮烈のなっていくところが印象的。自分のジイさんは最後は朝から飲んでてちょいアル中気味だったのですが、死ぬ前に入院して飲めなくなったら少しの間精神が明晰になったのを覚えています。
酒癖の悪い人はリアルで心当たりがあるけど、本当に半端ない。シラフではおとなしいのに飲むと恐ろしくて近くに寄れません。内なる狂気というか、周囲に対して感受性が強すぎて色々溜まるものがあるのでしょうか。
作者の吉村昭も若い頃に結核で肺を片っぽ切断しているので、病状の描写がリアルでした。