「北天の星」吉村昭著

上下巻。吉村先生が数書いている漂流物の一種ですが、船が難破したのではなくロシアに拉致されたという変わり種。

文化露寇というロシアの襲撃で択捉島にいた五郎次は連行されてオホーツクへ。日露の関係は険悪になって五郎次はなかなか帰国するチャンスがない。何度かオホーツクを脱走してサバイバルするも失敗。ロシアは日本語教師を確保しようとして誘うも、五郎次は最後まで拒否し、ゴローニン事件に伴い、捕虜交換のために日本へ。

日本側の険悪な姿勢があるもなんとか帰国できた。結局ゴローニン事件を解決に導いたのは、五郎次と入れ替わるように連行された高田屋嘉兵衛が、その情勢判断能力からロシア人艦長を説得して、ロシアに公的に日本に謝罪するようにしたんだな。五郎次もサバイバル能力が高くて有能なんだけど、高田屋嘉兵衛はかなり別格な感じ。司馬遼太郎菜の花の沖の主人公です。

この小説の後半は、話が打って変わって、五郎次がロシアで聞いてきた天然痘の種痘の話。五郎次が松前で奇跡的に入手した牛痘株を使って、日本で最初に種痘を成功します。残念なことに、五郎次は視野が狭くて、自分の収入元としてしか捉えられず、松前以外の地域には広まらなかった。五郎次の晩年に、他の医者が種痘の価値を認めて、株を譲って貰おうとするも、収入源が減ると言って断ってしまった。五郎次と同時期に株をロシアから持ち帰った久蔵は、広島藩に認められず種痘を実施することができなかった。種痘の実施は数十年遅れてしまったのでした。